【監修 You矯正歯科 大阪医院院長 青山健一】
「歯列矯正を始めたいけれど、親知らずを抜くのが怖い……」
「痛くないなら、そのままにしておいても良いのでは?」
矯正治療を検討されている多くの患者様にとって、親知らず(第三大臼歯/智歯)の扱いは、矯正治療そのものと同じくらい大きな悩み事であり、関心事です。
親知らずは抜くべきなのか、それとも残すべきなのか。インターネット上には様々な意見が飛び交っています。
☆抜歯否定派:「せっかく生えている身体の一部なのだから、痛みがないなら無理に抜く必要はない」
☆抜歯賛成派:「親知らずは『百害あって一利なし』矯正治療をする・しないに関わらず、予防的に抜くべきだ」
一体どちらが正解なのでしょうか?
結論から申し上げますと、矯正治療の専門家は、感情論ではなく「明確な医学的根拠」と「長期的な治療計画」に基づいて判断を下します。
本記事では、親知らずの基礎知識から、矯正治療における重要な役割、抜歯を回避できる例外的なケース、さらには「小顔になる?」といった都市伝説の真偽まで徹底的に解説します。これを読めば、あなたの親知らずに対する迷みは消えるはずです。
1.親知らずの基礎知識:なぜトラブルメーカーなのか?
まずは敵を知ることから始めましょう。親知らずとは一体どのような歯なのでしょうか。
現代人には「不要」になりつつある歯
親知らずは、前歯の中心から数えて8番目に位置する、最も奥にある歯です。専門的には「第三大臼歯」と呼ばれます。
一般的に10代後半から20代前半にかけて生えてきます。昔は平均寿命が短かったため、この歯が生える頃には親がすでに亡くなっていることが多く、「親知らず」という名がついたという説が有力です。
進化の過程で、火を使って柔らかい食事を摂るようになった人類は、顎が徐々に小さくなってきました。その結果、最後に生えてくる親知らずには十分なスペースが残されておらず、現代人の多くは親知らずが正常に生える場所を持っていません。
人によっては最初から全く生えない場合もあれば、4本すべて揃っている場合、あるいは過剰歯として4本以上ある場合など、個人差が非常に大きいのも特徴です。
2.【一般歯科の視点】矯正に関係なく「抜歯」が推奨される3つの理由
矯正治療をするかどうかにかかわらず、歯科医師の多くは「親知らずは抜いたほうが良い」とアドバイスすることが多いです。これには、単に「邪魔だから」という以上の医学的理由が存在します。
理由①:清掃が物理的に不可能に近い(衛生面のリスク)
最大の理由は、親知らずの存在する位置にあります。口の最深部にある親知らずには、歯ブラシを正しく当てることは至難の業です。
ご自身では「しっかり磨いているつもり」でも、歯科医院で染め出し検査をすると、親知らず周辺はプラーク(歯垢)がびっしりと残っているケースがほとんどです。また、歯と歯の間を掃除するデンタルフロスを通すことも極めて困難です。
不衛生な状態が続くと、親知らず自体が虫歯になるだけでなく、「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼ばれる炎症を頻繁に引き起こします。疲れた時やストレスがかかった時に、奥歯の歯茎が腫れて激痛が走るのは、この智歯周囲炎が原因であることが多いのです。
理由②:手前の「大黒柱(7番目の歯)」を破壊する(最大のリスク)
歯科医が最も恐れているのは、親知らずそのもののトラブルよりも、「手前の大切な歯(第二大臼歯、前から7番目の歯)」への悪影響です。
7番目の歯は、6番目の歯とともに噛み合わせを支える「大黒柱」のような存在です。
しかし、親知らずが斜めにぶつかっていたり、中途半端に生えていると、7番と8番(親知らず)の間に深いポケット(隙間)ができます。ここに汚れが溜まると、手前の7番目の歯の奥側が深い虫歯になったり、重度の歯周病で骨が溶かされたりします。
最悪の場合、「親知らずのせいで、健康だったはずの手前の歯まで抜歯しなければならなくなる」という悲劇が起こります。
そういう意味でも一生自分の歯で噛むためには、7番目の歯を守るために、リスク因子である親知らずを排除する必要があるのです。
理由③:治療器具が届かず、質の高い治療ができない
仮に親知らずを残したとして、将来親知らずが虫歯になったとしましょう。その際、お口のあまりに奥深くに位置するため、虫歯を削るタービンなどの器具が物理的に入りにくく、歯科医が患部を直視することも困難です。
精密な治療ができない環境で無理に残しても、再発を繰り返すだけです。「手前の7番目の歯さえ健康であれば、噛む機能に支障はない」と判断されるため、治療の質が担保できない親知らずは、抜歯という選択肢が第一になります。
3.【矯正歯科の視点】治療の成否を分ける親知らずの役割
ここからが本題です。矯正治療において、親知らずは単なる「奥歯」ではなく、治療計画全体を左右する重要なファクターとなります。
①「後戻り」という悪夢を防ぐ
矯正治療で数年かけて美しく整えた歯並び。
しかし、装置を外した後に歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」が起きることがあります。親知らずが残っていると、このリスクが跳ね上がります。
親知らずは、生えようとする力(萌出力)を持っています。特に横向きや斜めに埋まっている親知らずは、手前の歯をドミノ倒しのように前方へグイグイと押し続ける力を働かせることがあります。
これが原因で、せっかくきれいに並んだ前歯が再びガタガタになったり(叢生)、噛み合わせが崩れたりするのです。この「見えない圧力」を排除するために、抜歯は非常に有効な手段となります。
②「非抜歯矯正」を成功させるためのスペース確保(遠心移動)
近年、「健康な小臼歯(4番・5番)を抜かずに矯正したい」という非抜歯矯正のニーズが高まっています。
歯を抜かずにスペースを作る一つの方法に、「奥歯を後ろに下げる(遠心移動)」というテクニックがあります。
しかし、一番奥に親知らずが存在していると、それが「壁」となってしまい、奥歯を後ろに動かすことが物理的に不可能になります。
この場合、親知らずを抜くことで、奥歯を動かすための「十分なスペース」を確保します。
つまり、「親知らずを抜くことで、他の大切な歯(小臼歯)を抜かずに済む可能性が高まる」のです。
これは、非抜歯矯正を希望される方にとって非常に大きなメリットです。
③噛み合わせ全体のバランス調整
親知らずが上下噛み合わずに伸びすぎていたり(挺出)、横向きで頬の粘膜を噛んでしまっていたりする場合、それは顎の動きを制限する原因になります。
スムーズな顎の運動と正しい噛み合わせを確立するために、障害となっている親知らずを取り除くことは、機能的な矯正治療の第一歩と言えます。
4.親知らずを「あえて残す」という選択肢(抜歯不要の例外ケース)
ここまで抜歯の必要性を説いてきましたが、全ての親知らずが悪者なわけではありません。
専門的な診断の結果、「戦略的に残す」という判断をするケースもあります。
ケース1:完全に正常に生え、機能している場合
親知らずが上下とも真っ直ぐきれいに生えており、しっかりと噛み合っていて、かつ歯ブラシも届き虫歯のリスクが低い場合。これは「無理に抜く理由がない」ため、そのまま残して矯正治療を行います。
ただし、現代人の顎のサイズではかなり稀なケースです。
ケース2:抜歯矯正治療の「アンカー(固定源)」として利用する場合
例えば、小臼歯を抜いて口元をきれいにする(Eライン)出っ歯を治す治療で、前歯を大きく後ろに下げたい場合には、奥歯を固定源(アンカー)として利用します。
この際、親知らずもしっかり生えていれば、「奥歯の強度を増すための杭」として利用できることがあります。親知らずを含めて固定することで、より強い力で前歯を引っ張ることが可能になるのです。
ケース3:将来の「歯牙移植(しがいしょく)」のドナーにする
もし手前の大臼歯が将来ダメになった場合、親知らずを抜いてその場所に植え替える「自家歯牙移植」という治療法があります。 親知らずの状態が良く、矯正治療の障害にならないのであれば、「将来のための保険」として温存するという考え方もあります。
ケース4:部分矯正の場合
前歯の少しのガタつきだけを治したいといった「部分矯正」で、奥歯を動かす必要が全くない場合は、親知らずの存在が治療に影響しないため、抜かずに進めることが一般的です。
5.抜歯の難易度と痛みについて:心構えのために
「抜歯はどれくらい痛いのか?」これも患者様の大きな不安要素です。抜歯の難易度は、親知らずの「埋まり方」によって天と地ほどの差があります。
| 生え方のタイプ | 難易度 | 痛み・腫れ | 特徴 |
| 真っ直ぐ生えている | 低 | 少ない | 一般的な抜歯と同じ。数分で終わることも多い。 |
| 斜めに生えている | 中 | あり | 歯を分割して抜く必要がある。術後数日は痛みが出る。 |
| 完全埋伏(骨の中) | 高 | 強い | 歯茎を切開し、骨を削る処置が必要。腫れる可能性大。 |
特に注意が必要なのは「下顎の埋伏智歯」です。
下顎の骨は硬く、親知らずの近くには「下歯槽神経」という太い神経が通っています。神経に近い場合は、CT撮影を行い、安全性を十分に確認した上で慎重に抜歯を行う必要があります。
場合によっては、大学病院の口腔外科を紹介し、鎮静法(眠っているような状態でリラックスして受ける麻酔)を用いて抜歯することをお勧めすることもあります。
6.親知らずに関する都市伝説:ウソとホント
SNSなどで広まる噂について、専門家の視点から真実をお答えします。
Q1. 親知らずを抜くと小顔になるって本当?
半分ウソで、半分ホントです。
医学的に「骨格そのもの」が小さくなることはありません。しかし、親知らずがなくなることで、その周辺の骨がわずかに痩せたり、噛み合わせが変わってエラ部分の筋肉(咬筋)の張りが取れたりすることで、結果としてフェイスラインがすっきりして見える(小顔効果を感じる)ことはあり得ます。ただし、過度な期待は禁物です。「小顔目的」だけで抜歯をするのはお勧めしません。
Q2. 抜けば自動的に歯が動いて隙間が埋まる?
A. ウソです。親知らずを抜いたからといって、手前の歯が勝手に後ろに動いてスペースが埋まることはありません。後ろ方向への動きは、矯正装置の力を使って意図的に動かさない限り、歯は動きません。
Q3. 抜歯で顎関節症になる?
A. 逆のケースが多いです。抜歯が直接的な原因で顎関節症になることは稀です。むしろ、噛み合わせを悪くしていた親知らずを抜いたことで、顎の負担が減り、顎関節症の症状が軽減したという報告の方が多く見られます。
7. まとめ:後悔しない選択のために
親知らずを抜くべきか、残すべきか。その判断は、「現在の痛み」だけでなく、「将来の歯並び」や「口腔内全体の健康」を見据えて行う必要があります。
【本記事のポイント】
1.基本は抜歯推奨:衛生管理の難しさと、手前の歯を守るために抜いたほうがメリットが大きいケースが大半。
2.矯正治療の鍵:「後戻り防止」と「スペース確保」のために、親知らずの抜歯は非常に有効な手段となる。
3.例外もある:完全に真っ直ぐ生えている場合や、移植のドナーとして残すなど、戦略的に保存することもある。
4.自己判断は危険:見た目では分からなくても、レントゲンやCTで見ると骨の中で手前の歯を押していることがある。
矯正治療を検討中の方、あるいは親知らずに悩んでいる方は、ご自身で「抜く・抜かない」を決断する前に、必ず矯正の専門家にご相談ください。
あなたの親知らずが「百害あって一利なし」の歯なのか、それとも「将来の助けになる」歯なのか。専門的な視点で精密検査を行い、あなたにとってベストな治療計画をご提案します。
まずは専門医の診断を
当院では、親知らずの生え方だけでなく、神経との距離や矯正治療への影響を含めた総合的な無料相談を行っております。
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