非抜歯矯正のリスク

【監修 You矯正歯科 大阪医院院長 青山健一】

非抜歯矯正はどこまで可能?専門医が“適応条件”をわかりやすく解説

歯列矯正を検討されている方々にとって、「健康な歯を抜く必要があるのか」という疑問は、治療に踏み出す上での大きな障壁となりがちです。

インビザラインなどの治療法の進化により、「非抜歯矯正」という選択肢が身近になった今、「抜かない矯正は誰でもできるのか?」「どこまで可能か?」という問いは、患者様から最も多く寄せられる質問の一つです。

実際、私のクリニックに来られる患者様の多くは、歯をなるべく抜きたくない、非抜歯での治療を強く希望されます。もちろん、全ての患者様で抜歯をせずに矯正治療が開始できないわけではありません。

非抜歯矯正のリスク

本来、抜歯が必要な症例で無理に非抜歯矯正を試みると、口元が前に出てしまったり(口元突出)、歯茎が下がったり(歯肉退縮)、さらには治療後に歯並びが元に戻りやすくなる(後戻り)といった、好ましくない結果を招くリスクが高まります。

本記事では、非抜歯矯正がどこまで可能なのか、そして適応できる方とそうでない方の決定的な違いについて、矯正専門医の立場から詳しく解説します。

1.抜歯・非抜歯の判断基準:医学的安全性と患者様の希望

矯正治療において抜歯が必要か否かを決定する際、まず患者様のご希望が考慮されます。たとえば、「どうしても歯を抜きなくない」「将来的に歯が減るのが怖い」といったご意見は重要です。
そのご希望に対し、私たち歯科医師は医学的見解に基づき、治療の可否や最適な計画を提示します。

この医学的資料は「精密検査」と呼ばれ、レントゲン写真数種類、口腔内およびお顔の写真、口腔内をスキャンした3Dデータなどを用いて取得されます。

1.抜歯・非抜歯の判断基準:医学的安全性と患者様の希望

当クリニックにおいてでさえ、非抜歯で治療ができる患者様の割合は、おおよそ8割から9割程度である一方、残り1~2割の患者様は何らかの歯を抜いて治療する必要があるのが現状です。

☆治療計画の根幹となる判断基準

抜歯の是非を判断する最大の基準は、「安全に歯を並べることができるか」に尽きます。
矯正治療では、歯を顎の骨(歯茎の中)に安全に収めて並べる必要があります。

歯を抜かずに動かそうとした結果、「歯が歯茎から安全な範囲を超えて飛び出してしまう」すなわち安全に歯を並べるスペースを確保できない場合は、残念ながら抜歯が必要となります。
医学に基づいた治療の進行は、私たち矯正専門医にとって最も大事な要素の一つです。

2.非抜歯矯正を可能にする3つのスペース確保法

非抜歯矯正で治療を進める場合、歯を動かすためのスペースを確保するために、主に以下の3つの方法を単独または複数組み合わせて行います。

(1)奥歯の遠心移動(後方へ動かす)

奥歯を後方、すなわち後ろ側に動かすことでスペースを作る方法です(遠心移動)。
この方向の歯の移動は、以前は動かすことが難しい治療でしたが、近年、歯科矯正用アンカースクリュー(矯正用のインプラント)やインビザラインなどのマウスピース型矯正器具が開発されたことにより、この遠心移動が以前よりも容易に行えるようになり、非抜歯矯正の選択肢を大きく広げました。

奥歯の遠心移動(後方へ動かす)

奥歯は1~3mmと動かすことが可能となることが多いです。しかし、骨格によってはこの治療法が向かない場合や、奥歯の後ろに土台となる骨が十分にない場合があり、全ての人に適用できるわけではありません。

また、この方法を選択する場合、親知らずがある場合は基本的に抜歯が必要となります。
矯正治療における「非抜歯矯正」とは、一般的に親知らず以外の歯を抜歯しないで矯正治療を行うことを指します。

(2)歯列の側方拡大(横幅の拡大)

内側に倒れている歯を、正しい位置(垂直の状態)に起こしてあげることで、歯が並ぶスペースを獲得する方法です。
成人の場合、顎の骨の幅自体を広げることは困難ですが、歯自体の傾きを変える(奥歯を外側に傾ける)ことで歯列を広げ、スペースを生み出します。

歯列の側方拡大(横幅の拡大)

(3)IPR(歯の側面を削る)

IPR(またはディスキングとも呼ばれる)は、歯と歯の間の側面を少量だけ(0.1mm~0.5mm)研磨・切削し、隙間を作る方法です。

IPR(歯の側面を削る)

歯を削ることに不安を感じる方もいますが、適切な切削量(一般的に0.25mmから0.5mm程度)であれば、通常、痛みが出たり、麻酔の注射を打つ必要はありません。

また、適切に処置されれば、虫歯になりやすくなったり、歯がもろくなることもありません。
このわずかな隙間を利用することで、抜歯を選択した場合と「ほぼ遜色ない仕上がり」が期待できる場合があります。

3.非抜歯矯正の適応条件と非適応者との決定的な違い

非抜歯矯正が可能かどうかは、これらのスペース確保法で、安全に歯を並べるために必要なスペース量を確保できるかにかかっています。

☆非抜歯矯正の理想的な適応者

一般的に、非抜歯矯正の適応となるのは、以下のような症例です。

1. 顎の骨の位置に大きなズレがない方:受け口や口ゴボ(出っ歯)など、上下の顎の骨の改善を希望していない方。
2. 歯のデコボコ(叢生)の度合いが重度でない方:歯を大きく動かす必要がない、軽度から中度のガタつきの方。
3. 歯列に隙間がある(すきっ歯)の方。

非抜歯矯正の理想的な適応者

☆非抜歯矯正の非適応者:大きなスペースが必要なケース

一方、非抜歯が難しい、すなわち抜歯矯正が必要となるケースは、歯を移動させるために「大きなスペースが必須」となる場合です。

・顎が小さかったり歯が大きかったりするために、歯のデコボコの度合いが非常に大きい方。
・上下の顎の骨のズレ(受け口、出っ歯、顎偏位)の改善を希望する方。
・口元が前に出ていることがコンプレックス(口ごぼ)で、最大限に口元を下げたい(Eラインの改善)を希望される方。

非抜歯の方法(遠心移動、拡大、IPR)で得られるスペースは、抜歯によって得られるスペースほど大きくありません。
そのため、これらの非適応者が無理に非抜歯矯正を選んでしまうと、安全な治療計画の許容範囲を超えてしまい、冒頭で述べたようなリスクが発生します。

4.無理な非抜歯矯正が引き起こすリスクと後戻りの関係

本来、抜歯が必要な症例で無理に非抜歯で治すと、歯が顎の骨の中で「パンパンで窮屈な状態」で並ぶことになります。
この窮屈さが、後戻り(歯が元のガタつきに戻ろうとする現象)を起こす可能性を高くしてしまいます。

また、無理な非抜歯矯正は、後戻り以外にも以下のようなリスクを伴います。
これらは、非抜歯で後戻りするケースとしないケースを分ける重要な違いとなります。

☆リスク

口元の突出(前突)

スペースが不足しているにもかかわらず歯を並べると、特に前歯が外側に大きく傾斜し、唇が前に出てしまい、横顔の見た目(Eライン)に悪影響が出ます。

口元の突出(前突)

歯肉退縮

ガタつきが激しい歯を無理やり並べる際、歯が骨から外側に大きく傾き、歯周組織に強い負担がかかることで、歯茎が下がる現象(歯肉退縮)を引き起こすリスクが高まります。
これにより、歯が長く見えたり、歯間に「ブラックトライアングル」(隙間)が生じやすくなります。

噛み合わせの機能低下

非適応者が無理に非抜歯矯正を選択することは、健康な歯を抜くこと以上に大きなダメージや、再度の矯正治療費用が発生するリスクを高める可能性があるのです。

5.歯科医師間で診断が分かれる理由

患者様が複数のクリニックで相談した際、「抜歯が必要」という医師と「非抜歯で大丈夫」という医師がいる場合があり、どちらを信じていいか迷うというご質問も少なくありません。

これは、どちらの診断が「正しい」「間違っている」というわけではないことが多いです。
その理由の一つは、矯正治療の適正なゴール(治療終了後のイメージ)が歯科医師の考え方や患者様からの希望などで「許容範囲の幅」を持っているからです。

この「適正な許容範囲」の中で、歯科医師がどこに治療のゴールを設定するかによって、判断が分かれます。

例1: 口元のコンプレックスを最大限改善し、横顔を美しくしたい(Eラインを整えたい)という強い希望がある場合、前歯を大きく下げるため、抜歯が最も効果的な治療法となります。(You矯正歯科では抜歯矯正をお勧めする)

例2: 口元は特に気にせず、とにかく「歯を抜きたくない」という希望が強く、安全に噛み合わせを整えることができれば良いという場合、非抜歯での治療が選択肢に入ることがあります。(You矯正歯科においては非抜歯矯正を推奨する)

例3:見た目よりも不定愁訴の改善を希望している場合、スプリントで改善の有無を確認してから最適な方法を選択する(You矯正歯科においては非抜歯矯正を推奨する)

患者様の希望やコンプレックスの度合い、そして医師の治療方針や用いる器具(インビザラインやアンカースクリューなど)の進歩によって、非抜歯の適用範囲は異なってくるため、診断に違いが生じるのです。

歯科医師間で診断が分かれる理由

6.まとめ:納得のいく治療を受けるために

非抜歯矯正は、顎のズレが軽度で、歯のデコボコも重度でない方にとっては、非常に有効な選択肢です。
奥歯の遠心移動やIPRといった進歩した技術により、非抜歯で美しい歯並びと安全な噛み合わせを実現できる症例は増えています。

しかし、「絶対に歯を抜きたくない」という希望だけで治療を進めるのではなく、ご自身の骨格や歯並びの状況を精密検査で正確に把握することが重要です。
治療後の人生を長く快適に過ごすのは患者様ご自身です。

治療開始前には、担当の歯科医師とカウンセリングを十分に行い、非抜歯矯正のメリットだけでなく、後戻りや口元突出といったリスク・デメリットについても深く確認し、納得できる治療計画を選択することをお勧めします。

まとめ:納得のいく治療を受けるために

 

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