「人前で話すのが得意ではない」「自分の話し方が周りにどう思われているか気になる」といった悩みを抱えている方は、決して少なくありません。
私のように、親しい家族にさえ「コミュ障」だと指摘されてしまうような、根深い苦痛を感じている方もいるかもしれません。
私自身、人前で話すことに対して強い抵抗を感じ、苦労してきました。
本日は、そうした苦手意識といかに向き合い、どう乗り越えていくかについて、一つの重要な視点をお伝えしたいと思います。
完璧であろうとする努力が、かえって苦しみに変わる時
人前で話すことが苦手な人ほど、「失敗してはいけない」「正しく伝えなければ」という強いプレッシャーを自分に課しがちです。
例えば、結婚式でのスピーチのように、人前で話さざるを得ない状況に置かれたとき、準備を重ねて原稿を暗記しようと試みるのは自然なことです。
しかし、完璧に暗記した文章を読まずに伝えようとするあまり、感情のこもらない「棒読み」になってしまい、それがかえって周りからの皮肉めいた評価につながってしまい、大変恥ずかしい思いをした経験が私自身にもあります。
正確さを追求し、誰からも非難されない「伝達事項のような」話しをしようとすることは、精神的に非常に辛く、しんどい作業です。この「正しくあろう」とする努力は、時に自分のメンタルを疲弊させ、その場から逃げ出したくなるほどのストレスを生み出します。
思いを伝えることに焦点を合わせる
では、この苦痛をどのように手放せば良いのでしょうか。ある時、あまりの辛さから「もういいや!」「どうにでもなれ!」と開き直るしかなかったという経験が、私の転換点になりました。
その時に、「スマートな話し方や原稿の正確さよりも、自分の思いを伝えること」に焦点を移すことにしたのです。
人前で話す時、細かい原稿のラインを完璧に追うのではなく、自分が本当に伝えたい気持ちを核にして自分の言葉で話すようにした結果、ストレスが大幅に減ったという経験があります。
実際、聞いてる人は必ずしも「上手なスピーチ」を聞きたいわけではありません。
ある結婚式場で、話し手がうまく話せない自分が嫌になって感情的になってしまい、参列者の前で自分の原稿を破り捨ててでも、友人への素直な気持ちを涙ながらに語ったところ、大喝采を浴びたという動画を見たことがあります。
このことは、「喋り方よりも、思いの方が大事」であるということを強く示唆しています。
私たちが発する言葉は、技術的な巧みさよりも、その根底にある真摯な気持ちや情熱が伝わった時に、聞き手の心を動かし、感動を与えるのです。
苦手意識が他者への勇気や希望となる
苦手なことに向き合う過程は、私たち自身の成長だけでなく、他の誰かの希望にもなります。
例えば、今年、プロ野球界に、163cmと日本のプロ野球選手の中で一番身長が低い人がドラフト3位で広島カープに指名されました。
彼は子供の時から「小さい体ではプロ野球選手にはなれない!」と周囲に言われながらも、それをコンプレックスではなく、「自分と同じように体が小さい人に勇気と希望を与えたい」という目標に変えて頑張ってきたらしいです。
周りよりも劣っていることをやらない理由にするのではなく、むしろ頑張る理由に変えてきた彼には共感する人も多いのではないでしょうか?!
人前で話すのが得意ではない人が、それでも逃げずに、自分の言葉で懸命に語ろうとする姿は、同じタイプの苦悩を抱える人にとって、大きな共感と元気を与えることになります。
また、最初から優秀で何でもこなせるように見える人(例えば、東大に合格するような優秀な学生や、入社当初から教えなくても勝手に成長していく社員)は、苦労なく順調に進んでいるように見えます。
しかし、かつて仕事ができなかったり、勉強で苦労したりした経験を持ち、それを乗り越えた人こそが、今現在「できない」と悩んでいる人の気持ちを深く理解し、具体的なアドバイスを提供できるのです。
長期的、多角的な視点で見れば、若い頃に結果を出す優秀な人よりも、苦労を乗り越えてきた人の方が、様々な立場の人の気持ちが分かり、共感を通じて指導者としては優秀である可能性があります。
あなたの苦手は誰かのギフトになる
私たちは、得意なことを伸ばすことで人から認められることを望みますが、得意ではないけれど、逃げずにそこに向き合った経験こそが、同じ立場の誰かにとっての「元気」や「勇気」となるのです。
私が朝礼などで訓示を述べる場合に意識していることがあります。
それはすべての人に伝わる必要はない。50人のスタッフのうち、1人か2人にでも、私の思いが伝わり、何かを感じ取ってもらえれば、それで十分だということです。
もし今、あなたがコミュニケーションや人前で話すことに悩んでいるなら、どうか完璧を目指すのをやめてみてください。
「どうにでもなれ」という開き直りの中に、あなたの本質的な思いが現れ、それが最も人の心に届く道かもしれません。
苦手なことを乗り越え、あるいは逃げずに立ち向かうあなたの姿は、同じように悩む誰かにとって、一歩先へ進むための大きなエネルギーになるはずです。
苦手意識から目を背けず、向き合っていくこと。それは、あなた自身の「生き方」として、周りの人々に良い影響を与える原動力となるでしょう。
得意なことを伸ばすもよし、苦手なことと向き合うもよし、どちらにも大きな意味と価値があるのです。