仏教では「人生は苦である」と説かれますが、私たちのストレスの正体は「自分の期待」と「現実」のギャップにあります
アドラー心理学では、人間の悩みの9割以上は対人関係であると言われています。
なぜ人間関係がこれほどまでに私たちを苦しめるのか。それは、「他人は自分の思うようには動いてくれない」からです。
「こうなってほしい」という自分の願いと、そうはならない現実。この差が大きければ大きいほど、私たちは悩み、苦しみます。
これは人間関係に限らず、雨が降る、電車が遅れるといった自分ではコントロールできない環境に対しても同じです。
「コントロールできる悩み」と「できない悩み」
私たちが健やかに生きるための第一歩は、目の前の悩みを「自分でコントロールできるもの」と「できないもの」に分けることです。
かつて、私が経営に悩み、先輩医師に相談した際、こんな言葉をかけられました。「君の悩みは自分が頑張ればどうにかなる(コントロールできる)ものだから、羨ましいよ」と。その先輩医師は、家族が不慮の事故に遭い、自分ではどうすることもできない深刻な状況に立たされていました。
もし、あなたの悩みが自分の努力や行動で変えられるものなら、一生懸命頑張る価値があります。しかし、世の中の出来事の多くは、自分ではコントロールできないことばかりです。
天候、他人の感情、過ぎ去った過去、そして突然の病。これらに対して、いつまでも「こうなればいいのに」と執着し、抗い続けることは、自らの苦しみを深める結果を招いてしまいます。
「早く受け入れたもん勝ち」の法則
「幸せ」の一つの形は、「受け入れる(受容)」ことにあります。
自分の力ではどうしようもないことを「しょうがない」と受け入れること。これは決して「諦め」というネガティブな意味ではありません。むしろ、無駄な抵抗をやめて、心の平安を取り戻すための積極的な選択です。
「ダメなものはダメだ」と早く受け入れてしまったほうが、心は穏やかになります。
今の状況に執着して「なぜこうなったのか」と苦しむよりも、「起きたことは事実として受け入れ、その中で今できることだけをやる」と決めるのです。
徳川家康の遺訓に「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。急ぐべからず」という言葉があります。天下を取った将軍でさえ、人生は不自由なもので、重荷を背負って歩き続けるようなものだと考えていました。
不自由であることを当たり前だと思えば、不足は感じない。この「足るを知る」という視点は、現代の私たちにとっても非常に有効な心の処方箋となります。
「日薬(ひぐすり)」という最強の治療法
とはいえ、どうしても心が受け入れを拒否し、悩みから離れられない時もあります。そんな時に覚えておいてほしいのが、「日薬(ひぐすり)」という考え方です。
失恋の痛みを癒す一番の薬は時間だと言われるように、どんな悩みも、時間が経てばいつの間にか形を変え、消えていくものです。
私たちは自分で悩みを解決していると思いがちですが、実は「時間が解決してくれている」側面が非常に大きいのです。
解決できない悩みに囚われそうになったら、あえてそこから意識を逸らし、違うことに目を向けてみてください。
無理に「考えないようにしよう」とすると、逆にそのことばかり考えてしまうのが人間の脳の仕組みです。
ですから、ただ淡々と、今目の前にある仕事や家事に集中し、時間が過ぎるのを待つのです。
「日薬」を待つ間、何に意識を向けると楽になれるか?
今、何かに心を奪われ重い気持ちになっているのであれば、その問題に「執着」するのをやめ、「今、この瞬間にできること」に意識を向けて、時間が過ぎるのを待ってみてください。
それが、コントロールできない不安から自分を解放する、最も確実で優しい方法です。
「ただ時間が経つのを待つ」というのは案外しんどいものです。そうでなく、他のことに集中しているうちに、いつの間にか時間が経過するうちに、その悩みは消えているか、あるいは別の問題へと置き換わっていきます。
1. 「今、目の前にあるできること」に淡々と取り組む
最も大切なのは、悩んでいる事象そのものではなく、「今、自分ができること」だけに意識を集中させ、それを淡々とこなしていくことです。
自分でコントロールできない領域(他人の気持ち、過去の出来事、病気、天候など)についていくら悩んでも、状況は変わりません。それよりも、今この瞬間に自分が手を出せる小さなタスクに没頭することで、余計な雑念を払拭することができます。
2. 不安を「無視」し、あえて「違うところ」に意識を飛ばす
不安を「考えないようにしよう」と強く思えば思うほど、脳はその不安に執着してしまいます。
「日薬」を待つ間は、思い通りにいかない現実をいちいち深刻に捉えず、「ほっとく」「無視する」というスタンスが有効です。
意識的に「全く別の関心事」や「仕事の忙しさ」に身を投じることで、物理的に悩む時間を削っていくことが心の平安に繋がります。
3. 「不自由が当たり前」という前提を受け入れる
私たちの苦しみは、「こうあるべきだ」「こうなってほしい」という自分の期待と、現実とのギャップから生まれます。
徳川家康の遺訓にもあるように、「人生は重い荷物を背負って遠い道を行くようなもので、不自由が当たり前である」という感覚を持つことが、心を楽にします。
「人生は思い通りにいかないのが普通だ(四苦八苦)」とあらかじめ諦め、「今の状況を早く受け入れたもん勝ち」だと考えることで、状況に抗うエネルギーを節約し、時間が解決してくれるのを静かに待てるようになります。
結論として:
「日薬」を待つ間は、解決できない問題から意識を逸らし、今この瞬間の役割や作業に「淡々と」集中することをお勧めします。
忙しく動き回っているうちに、いつの間にか時間は経過し、あんなに苦しかった悩みも自然と形を変え、消えていくものです。
