月曜日の朝、「あぁ、今日からまた仕事か…」と、思わず布団の中でため息をついてしまう。この「仕事に行きたくない」という感情は、立場や年齢、職業を問わず、誰もが一度は抱える普遍的な感情ではないでしょうか。
私たち人間は、土日に心と体を完全にオフにした状態から、再び仕事モードへと切り替える際に、少なからず苦労や努力を要します。これは世界中の誰もが経験する現実です。
先日、退職の挨拶に来てくれた一人の技工士さんは、当クリニックがホームぺージに掲げていた「朝起きて、出勤したくない、と思わないようなクリニックを目指しています」という目標が、実際に達成されていたと報告してくれました。彼女は、10年以上当クリニックに長期間勤務する中で、一度も「出勤したくない」と感じることがなかったと言ってくれたのです。
理想と現実の複雑な感情
彼女からのコメントを聞いたクリニックのトップである私は、複雑な心境になりました。
スタッフが「朝起きて、出勤したくない、と思ったことがない」と言ってくれる一方で、トップである私自身は、朝起きて「仕事に行きたくないな」と感じることが「結構ある」のです。(笑)
子供が月曜日の朝に登校を嫌がるのを聞いて、「パパも一緒だよ」と共感し、自分も行きたくない気持ちを口に出しながら、互いに励まし合ったりしていました。
この現実からいくつかの気づきがありました。
それは「職場への不満」や「仕事への嫌悪感」は、必ずしもその人の役職や能力とは直結しない、ということです。
そして、同じ職場、同じ環境で働いていても、人によって「いい職場」と感じるか、「不満がある」と感じるかは、大きく異なります。
同じ治療を提供しても、心から満足する人がいる一方で、不満を訴えたり、クレームになる人もいるのと同じです。この「感じ方の違い」こそが、個人の心の状態を測る重要なバロメーターとなります。
嫌な感情を乗り越える二つの心理的武器
では、いかにして私たちは、仕事や人間関係から生じるネガティブな感情をコントロールし、内なる平和を保つことができるのでしょうか?
60歳になる私は、長年の経験から、嫌な感情を抑えるために、「感謝の気持ち」が非常に有効であると感じています。年齢を重ねるにつれ、感謝の重要性を実感する人は増えていくでしょう。
しかし、理屈ではわかっていても、「感謝しろと言われても、感謝できない状況」も確かに存在します。
そのような時、私が意識して実践しているのが、「リスペクト(Respect)」の視点です。
リスペクトは、日本語では「尊敬」と「尊重」の二つの意味合いを持ちます。
尊敬は、相手を「すごい人だ」「優れている」と感じた時に抱きやすい感情です。しかし、誰でも尊敬できるわけではありませんし、「尊敬しよう」と努力するのは難しいものです。
一方尊重は、相手の存在や権利を認めることです。こちらは、「誰でもできること」です。たとえ嫌いな相手であっても、あるいは自分より年下や能力の低い人であっても、「尊重」は可能です。
私たちが自己嫌悪に陥ったり、落ち込んだりするのは、自分を「特別だ」「優れている」と感じた時に、現実とのギャップを感じるからです。しかし、周りの人や物事を尊重することで、自分を特別視することなく、落ち込みや自己卑下を防ぐことができます。
感謝と尊重は、自分の心が平和で安定した状態を保つために、大切にしていかなくてはならない土台となる感情なのです。
「当たり前」という落とし穴からの脱却
そして、最後に、私たちが常に注意を払うべき心理的な罠があります。それは、良い環境や周囲の人の優しさを「当たり前」と感じてしまうことです。
職場の雰囲気が良い、人間関係が円満である、という状況が続くと、人はついついそれを「普通」だと捉えてしまいます。
しかし、「当たり前」と思った瞬間から、人は感謝しなくなります。
私たちは、何かが壊れたり、失われたりして、「これは当たり前じゃなかったんだ」と気づいた時に初めて、深く感謝の気持ちを抱くことができるのです。
私のクリニックの職場環境が、人間関係の軋轢やトラブルが少ない平穏な場所でいられるのは、退職予定の技工士さんのように、「バランスのとれた感覚」の「感謝と尊重の精神」を持つスタッフが周りにたくさんいるおかげかもしれません。
日々、私たちは様々な良いことや悪いことに遭遇します。時には辛いと感じることもあるでしょう。
しかし、そのような時こそ、周りのすべてを「当たり前ではない」と意識し、感謝と尊重のレンズを通して世界を見つめ直すことが、自分の心の健康と、より良い職場環境を築くための鍵となります。
今日一日、身の回りのささやかな良い出来事に感謝し、出会う全ての人を「尊重」の気持ちで見つめるように努めれば、きっと、あなたの月曜日の朝は、少しだけ軽やかなものになるはずです。
