1. 「目に見える部分」で評価される現実
自宅の近くに以前から行列ができるラーメン店があり、気になって並んで食べたことがありました。
しかし数ヶ月後、犬の散歩で前を通ると、店内はガラガラになっていました。
行列ができていると「並んでみたい」と感じる反面、空いていると「入りたくない」と感じてしまうのが人間の心理です。
本来なら、自分が本当に美味しいと思う店が空いていれば「ラッキーだ」と考えればよいはずですが、周囲の評判や雰囲気に惑わされずに自分の感覚に自信を持てる人は決して多くありません。
この「目に見える部分や雰囲気で判断してしまう」という傾向は、医療の現場でもまったく同じことが起こります。
以前勤務していたクリニックに、非常に治療が丁寧な女性ドクターがいました。
歯科医師の目から見ると「この先生に治療してもらえたら安心だ」と感じるほどの素晴らしい治療内容でしたが、丁寧な分だけ治療時間がかかってしまい、患者さんからは「手際が悪い」「下手だ」と誤解されて担当変更を求められてしまったのです。
一方で、あるドクターが通常のペースで手際よく治療を行った際、患者さんから「先生は上手ですね」と褒められたことがあります。その理由を聞くと「手際が早くて治療時間が短いから」と言われたそうです。
治療時間の短さと医療の質は本来別のものですが、患者さんは目に見える部分や体感でしか良し悪しを判断されない場合があります。
また、ある知人のクリニックでは、器具の滅菌作業を非常に徹底して行っていました。
しかし、患者さんから見える場所にホコリが溜まっていたため、通院していた患者さんから「目に見える場所の清掃が雑なのだから、きっと滅菌も手を抜いているに違いない」と厳しいクレームの手紙が届いたそうです。
裏側でどれほど本質的な努力を重ねていても、患者さんは「目に見える雰囲気」や「直感」で評価を下すのです。
2. 人間心理の真理:人は「感情」で決めて「理論」で正当化する
人間心理の結論として、「人は感情で物事を決め、あとから理論で自分を正当化する」という性質を持っています。
恋愛でも「条件が良い人」を頭で理解できても、最終的に「好き」という感情が動かなければ進展しないのと同じです。
求人やクリニックの見学でも同様のことが言えます。給料や勤務時間といった目に見える条件は選考の前提にすぎず、最終的にその医院に就職するかどうかは、見学時に案内してくれた人の人柄や「この人と一緒に働きたい」と思えるかどうかの感情で決まります。
人は直感や感情で決断を下したあとに、理屈をつけて「自分の選択は正しかった」と自分に言い聞かせているのです。
3. 知識よりも「情熱」と「ラポール(信頼関係)」が心を動かす
この「感情と信頼関係(ラポール)」の重要性は、日々の診療業務や指導にも深く関わっています。
歯科衛生士が行うTBI(ブラッシング指導)で最も重要なのは、磨き方のテクニックそのものよりも患者さんとの「ラポール(信頼関係)」です。
技術指導だけでは右から左へ聞き流されてしまいますが、相手との信頼関係があれば「この人がここまで一生懸命言ってくれるなら、フロスや歯間ブラシをやってみよう」と心が動きます。
結果を出すパーソナルジム(ライザップなど)でも同様で、顧客が厳しい食事制限や運動を続けられるのは、「担当者が自分に一生懸命向き合ってくれているから、期待に応えて頑張りたい」という感情があるからです。
あるドラッグストアの社長の話ですが、専門知識が豊富な薬剤師よりも、高卒のアルバイトスタッフの方が薬をたくさん売るという現象があります。
薬剤師は知識がある分「薬だけでは治らない」「副作用もある」と理論を説明しがちですが、アルバイトスタッフは「この薬は本当に良い」という素直な気持ちと熱量で良い部分を伝えるため、買い手の心に届くのです。
私たち歯科医師やスタッフも、年数が経ち知識が増えるほど「こんな専門知識も知っている」と理論を語りたくなってしまいます。
しかし、知識の詰め込みは相手を惑わせるだけであり、実際に患者さんの心を動かすのは理論よりも感情です。
実際に当クリニックの矯正相談でも、15分ほどで必要最小限のポイントを簡潔に伝え、相手の感情に寄り添う姿勢で高い成約率を上げていたスタッフがいました。必ずしも相談の時間が長いから患者さんの心に響くわけではないんだと感じた例です。
まとめ
大切なのは、専門知識をひけらかすことではなく、ライザップなら「筋肉がついたらもっとカッコよくなりますよ」「一緒に頑張りましょう」と相手の感情に語りかけ、共に歩む姿勢を示すことです。どれほど知識が増えても、人が動く原点は「感情」にあることを忘れてはなりません。