先日、60歳で歯科医師を引退した同級生と話す機会がありました。
自分とは違う選択をした人と話をすると、「なぜやめようと思ったのか」「不安はないのか」といった問いを通して、自分自身の働き方や生き方、そして日々の「決断」について深く考える良いきっかけになります。
1. 「リタイア後の現実」と「やるべきことがある幸せ」
60歳で仕事を辞めた同級生を見て、周りの仲間からは「自由になって羨ましい」「責任がなくなって楽でいいな」という声も上がりました。私自身も一瞬「いいな」と思う反面、「もし自分が今やめたら、毎日何をするだろう?」と考えさせられました。
思い出すのは、自営業を営んでいた私の父親のことです。
父は仕事を取り仕切っていた現役を引退した後、趣味の社交ダンスをとても楽しそうに続けていました。しかし、コロナ禍や怪我・病気などが重なってダンスができなくなると、家で過ごす時間が増え、会うたびに「毎日やることがないのが一番しんどい」「現役で働いていた時が一番楽しかった」と漏らすようになったのです。
仕事でも趣味でも、朝起きたときに「やるべきこと」「頑張る理由」がある状態こそが、実は人間にとって一番充実していて幸せな状態なのかもしれません。
2. 「やっている最中の大変さ」と「終わった後の充実感」
学生時代の部活動や、出産・子育て、日々の運動なども同じです。 やっている最中は「しんどい」「やめたい」「楽になりたい」と不平不満や愚痴が出がちです。
しかし、やりきって終わった後や何年か経って振り返ったときには、「あの時頑張ってよかったな」「大変だったけれど良い思い出だな」と愛おしく思えるものです。
私自身、毎週火曜日のたまった仕事をこなすのは非常にハードで大変ですが、いざ仕事に集中している間は余計な悩みや嫌なことを考えずに済みます。そして、一日の業務が終わった瞬間には「やりきった」という大きなホッとした安心感と充実感が残ります。
スポーツジムに行く前に「面倒くさいな」と思っても、汗を流して帰る時には「行ってよかった、すっきりした」と感じるのと同じです。
3. 人生は「決断」の連続――患者さんの心理と重なるもの
私たちは朝起きてから夜寝るまで、無意識のものも含めると毎日何百回・何千回という「決断」を繰り返して生きています。
定年後の過ごし方、車の免許返納、結婚や離婚……人生の節目には大きな決断が伴います。
これは、当クリニックにお越しになる「矯正治療を決断する患者さん」の心理とも全く同じです。
患者さんも様々な悩みや不安を抱える中で、「自分を納得させる理由」を見つけ、勇気を出して大きな一歩(決断)を踏み出しています。
4. 後悔しない決断の基準――「結果の良し悪し」ではなく「プロセスの納得」
何かを決断するときに、「どちらを選んだ方が良い結果になるか(損か得か)」という結果だけで選んでしまうと、思い通りの結果にならなかった時に「もう一方を選べばよかった」と強く後悔することになります。
大切なのは、「自分なりに納得できる理由を持って選択したか」というプロセスの部分です。
「こういう理由で自分で決めた」という納得感があれば、仮に思い通りの結果にならなかったとしても、「自分で選んだのだから仕方ない」と現実を受け入れることができます。
現代は「こうすれば上手くいく」という甘い話や、便利なAIの情報があふれています。もちろん便利なツールや人の意見を活用するのは良いことですが、最後の判断まで誰かやAIのせい(他人のせい)にすることはできません。最終的な決断は、自分自身の責任であり、自分が大切にしたい軸に基づいて行うしかないのです。
まとめ
同級生との対話を通して、私自身は「早く楽になること」よりも、「毎日目的を持ち、やるべき仕事に向き合っている生活」の方が自分には向いているのだと改めて再確認できました。
日々いろいろな情報や不安に流されそうになることもありますが、自分なりに「納得できる理由」を大切にしながら、目の前の仕事や決断に一つひとつ誠実に向き合っていこうと思いました。